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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)4406号 判決

原告 中台専之助

右訴訟代理人弁護士 赤井瑞巌

被告 三陽化学工業株式会社

右代表者代表取締役 藤井宝存

主文

被告は原告に対し金二〇万円およびこれに対する昭和三八年四月一一日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、被告は昭和三八年二月五日訴外小倉建設工業株式会社にあて金額二〇万円、満期昭和三八年四月一〇日、支払地振出地ともに東京都北区、支払場所住友銀行赤羽支店なる約束手形一通を振り出した。

二、訴外小倉建設工業株式会社は同年二月九日白地式裏書により右手形を原告、訴外石川勇次郎、訴外野地松雄、訴外吉原薫の四名に対し譲渡し、原告は現にこれを所持する。

三、原告は右手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶された。

四、よつて被告に対し右手形金およびこれに対する満期の翌日以降完済まで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

と述べ、被告主張の抗弁に対し

1、被告主張の抗弁は否認する。

2、仮りに本件手形が被告主張のように被告が割引依頼のため訴外足立木四男らに預けたものであるとしても、原告らはそのような事実を知らないでこれを取得したものである。

3、原告(米穀商)、訴外石川勇次郎(酒類の販売業)、訴外野地松雄(魚商)、訴外吉原薫(青菓商)は訴外小倉建設工業株式会社に対し昭和三七年一〇月末から昭和三八年一月までの間に米、酒類、鮮魚、蔬菜類をそれぞれ売り渡し、原告は金三〇、九六五円、訴外石川(昭和三八年三月八日死亡)は金一二〇、四〇〇円、訴外野地は金三九、六四七円、訴外吉原は金二三、九三八円の各売掛代金債権を有していたところ右訴外会社は原告ら四名に対する右債務の支払を確保するため昭和三八年二月九日原告ら四名に対し本件手形を譲渡したものである。

と述べた。

被告会社代表者は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「原告主張の請求原因事実のうち被告会社が本件手形を作成したこと(ただし受取人欄は白地として)、および原告が現に本件手形を所持していることは認めるが、その余の事実は否認する。」と述べ、抗弁として、

1、本件手形は後記3の経緯により被告が訴外足立木四男、訴外石川次郎らに詐取されたもので、右両名および訴外小倉建設工業株式会社はいずれも本件手形上の権利を有しない。

2、したがつて、仮りに原告らが訴外小倉建設工業株式会社から本件手形の裏書譲を受けたとしても、原告らは右の事実を知り、もしくは重大な過失によりこれを知らないで取得したものであるから、被告は原告に対し本件手形金を支払う義務はない。

3、被告は金策の必要から、いずれも金額二〇万円とする約束手形三通(いずれも受取人欄白地)を作成し訴外足立木四男に割引依頼のため預けた。右訴外人は訴外小倉三郎に右手形を渡し、同人は更にこれを訴外石川次郎に渡して割引を依頼したところ、訴外石川は被告の要求により右手形三通のうち二通を返還したが、残る一通は遂に返還しなかつたもので、それが本件手形である。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一、原告が金額二〇万円、満期昭和三八年四月一〇日支払地振出地ともに東京都北区、支払場所住友銀行赤羽支店、振出人被告会社、受取人兼第一裏書人小倉建設工業株式会社、振出日昭和三八年二月五日なる本件約束手形一通を現に所持していることは当事者間に争がない。

二、≪証拠省略≫および原告本人並びに被告会社代表者藤井宝存本人の各尋問の結果を綜合すると、

1、被告会社の代表取締役藤井宝存は昭和三八年二月二日頃受取人欄を白地として本件手形を作成した上割引依頼のため同月五日訴外足立木四男にこれを交付し、右訴外人はその頃更に本件手形を訴外小倉建設工業株式会社の代表取締役小倉三郎に交付して割引を依頼したこと

2、原告は米穀燃料商、訴外石川は酒商、訴外吉原は青菓商、訴外野地は鮮魚商であるところ、原告および右訴外人らは訴外小倉建設工業株式会社に対し米、酒、蔬菜、鮮魚などを売り渡し、原告は金三〇、九六五円、訴外石川は金一二〇、四〇〇円、訴外吉原は金二三、九三八円、訴外野地は金三九、六四七円の各売掛代金債権を有していたこと

3、前記小倉三郎は原告および右訴外人らから右売掛代金の支払を要求されたので、昭和三八年二月九日原告らに対し右売掛代金を同月一五日に弁済することを約し、その支払を確保するため、前記の如く割引依頼のため交付を受けて所持していた本件手形の受取欄に小倉建設工業株式会社と記載補充した上右会社を代表して白地式裏書をなし、原告および右訴外人らに対しこれを交付して譲渡したこと

以上の事実を認めるに足り、右認定を左右するに足る証拠はない。

三、右の認定事実によれば、訴外小倉三郎は訴外足立木四男から本件手形の交付を受けるに当り被告主張の如くこれを騙取する意思を以て交付を受けたものと推認できないこともないが、仮りにそうだとしても前記認定の経過により本件手形を取得した原告、訴外石川、訴外吉原、訴外野地ら四名において右取得に当り善意で且つ重大な過失がない以上、原告ら四名は共同して本件手形上の権利を取得し、被告は振出人としての責任を負うものというべきであるところ、原告らが本件手形を取得するに当り本件手形が前記の如く割引依頼のため被告から訴外足立木四男を経て訴外小倉三郎に交付され、小倉三郎が割引依頼の約束に違背して原告らにこれを裏書譲渡するものである事実を知つていたこともしくは知らなかつたことにつき重大な過失のあつたことについては、これを認めるに足る証拠はない。そして原告本人尋問の結果によれば、訴外石川は昭和三八年三月八日死亡したこと、および同人の相続人として少なくともその妻があることを認め得る。

したがつて原告、訴外吉原、訴外野地および訴外亡石川の相続人は共同して本件手形の権利を有すること明らかである。

四、≪証拠省略≫に原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は本件手形の共同権利者全員のため本件手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶されたので、更に本訴に及んだことを認めるに足り、原告が現に本件手形を所持していることは前に認定したとおりである。

五、それなら、被告は原告に対し本件手形金およびこれに対する満期以降完済まで手形法所定の年六分の割合による利息を支払う義務あること明らかであるから、被告に対し右義務の履行を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 兼築義春)

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